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JAZZの愛聴盤-15

ジョージ・ウォーリントン(p)は白人ながら、20歳のときに史上初のビバップ・コンボといわれるディジー・ ガレスピー(tp)のクインテットのメンバーに抜擢されて一躍有名になった。
その後チャーリー・パーカー(as)、ジェリー・マリガン(bs)、ライオネル・ハンプトン(vib)、 クリフォード・ブラウン(tp)など、錚々たるメンバーと共演を重ね、1955年に自らのクインテットを結成して ハード・バップ全盛期の人気バンドになった。
オリジナル・メンバーはウォーリントンのほかにドナルド・バード(tp)、ジャッキー・マクリーン(as)、ポール・チェンバーズ(b)、 アート・テイラー(ds)という豪華な顔ぶれで、第1作『カフェ・ボヘミアのジョージ・ウォーリントン』は Progressiveという超マイナー・レーベルへの吹込みだったため、幻の名盤のなかでも最も手に入りにくい1枚 とされていた(なんでも市場に出回ったのは数百枚だとか……)。
70年代にプレスティッジがこの音源を買い取ってからは手軽に聞くことができるようになったが、 ぼくのお気に入りは『ザ・ニューヨーク・シーン』という57年の作品。



ちょうどジャズを聴き始めた1971年ごろに当時のビクター音楽産業からプレスティッジのアルバムが1,100円という低価格で 50枚(だったか100枚だったか)発売されて、ガイド・ブックを頼りに購入した1枚が、このアルバムだった。
バード以外はアルト・サックスにフィル・ウッズ、ベースがテデイ・コティック、 ドラムスがニック・スタビュラスという顔ぶれで、第1作に比べると明らかに地味なメンツになっているが、演奏は大変よい。

1曲目はモーズ・アリスンの「In Salah」という曲だが、ちょっと「クレオパトラの夢」を思わせる エキゾティックなナンバーで、出だしからグイグイ引きこまれるような演奏だ。
スタンダード・ナンバー「Indian Summer」や、バード作のブルーズ「'Dis Mornin'」もファンキーでかっこいいが、 A面3曲目にトリオで演奏される「Graduation Day」が抒情味あふれるナンバーで余韻が素晴らしい。

GEORGE WALLINGTON "The NEW YORK SCENE"
new jazz 8207

2005/05/15 © ryo_parlophone





訃報:ニールス・ペデルセン

4月21日、デンマーク生まれのベーシスト、ニールス・ヘニング・オルステッド・ペデルセンが亡くなった。
死因は不明、58歳だったそうだ。
先日の高田渡といい、50代の死というのはほんとうに悔やまれる。

ペデルセンの名前を最初に聞いたのはケニー・ドリューのアルバムだったか、それともデューク・ジョーダンのアルバムだったか、 いずれにしてもステープル・チェイス・レーベルのレコードだったと思う。
モダン・ジャズにおけるベースという概念をまったく新しくしてしまったスコット・ラファロを別格にすれば、 彼以降のベーシストでぼくが好きなのは、ロン・カーター、チャーリー・ヘイデン、ゲイリー・ピーコック といったあたりだが、北欧から出てきたペデルセンのベースを初めて聞いたときはその才能にほんとうに驚いたものだ。
60年代というから20歳そこそこ(ひょっとしたらまだ10代?)でバド・パウエルやビル・エヴァンスと共演した経験を持つ 天才ベーシストで、当然ラファロの影響を受けているが、そのなかでもほんとうにヴァーチュオーゾと呼ぶにふさわしい名手だった。

レコード・ラックを探したが、彼が参加したアルバムをぼくはもう持っていなかった。
今度1枚CDを買ってこよう。

2005/04/23 © ryo_parlophone





JAZZの愛聴盤-14

モダン・ジャズにちょっと詳しい人なら、セロニアス・モンクのレコーディング・アーティストとしてのピークが 1956年10月の『ブリリアント・コーナーズ』に始まるリヴァーサイド・エラにあることに異論はないであろう。

けれどもぼくはコロンビア移籍第1作にあたる『モンクス・ドリーム』がときどき無性に聴きたくなる。



この作品は62年10月から11月にかけて録音されたもので、パーソネルはモンクのピアノにチャーリー・ラウズの テナー・サックス、ベースにジョン・オー、ドラムスがフランキー・ダンロップという、 60年代初頭のモンク・カルテットのおなじみのメンバーである。
一般的にコロンビア時代のモンクはマンネリズムに陥ったという評価が浸透していて、あまり話題になることもないのだが、 このアルバムは文句なしの傑作である(シャレではありませんよ)。

まず表題曲の「Monk's Dream」が素晴らしい。
一度聞いたら忘れられないような印象的なテーマの後、最初に出るラウズのソロのファンキーなこと。
もともとアブストラクトなモンクの楽曲をさらに小さな単位に分解しながら再構築したような見事なソロである。
つづくモンクのソロはメロディアスでありながらブルーズ・フィーリングやブギウギ・ピアノの香気あふれるもので、 そのまま後テーマに繋がっていくが、この6分26秒のなんと短く感じることか。
これが10分ぐらいあればどんなににいいだろう!と思わせるような名演である。

モンクのアルバムではおなじみのソロのナンバー「身も心も」を挟んで、 つづく「Bright Mississippi」がまた素晴らしい。
この曲は聴けばすぐわかるように「Sweet Georgia Brown」のコード進行に基づいたモンクのオリジナルだが、 このセッションにおけるチャーリー・ラウズは絶好調で、魅力的な音色とともにモンクの描く世界を自家薬籠中のものにして 見事なソロを展開する。
国内盤の解説で児山紀芳さんが書いているが、このときモンクはバッキングというよりラウズのソロとパラレルにソロを弾く ような感じで、その対比がまた美しい。
つづくモンクのソロも間然とするところのない名演だ。

こうしてラストの「Sweet And Lovely」まで全8曲、とにかく魅力的なアルバムだ。

THELONIOUS MONK "MONK'S DREAM"
COLOMBIA CS 8765

2005/04/16 © ryo_parlophone





JAZZの愛聴盤-13

ジャズに詳しい方ならご存知だと思うが、ダグ・ワトキンズは、同じベース奏者ポール・チェンバーズの 1歳違いの従兄である。
だが、そういうエクスキューズが必要ないほど、彼は傑出したベース・プレイヤーであった。
54年にアート・ブレイキー・アンド・ザ・ジャズ・メッセンジャーズの初代ベーシストとしてレコーディング・デビューを飾り、 56年にはソニー・ロリンズのあの畢生の名作『サキソフォン・コロッサス』のレコーディングに参加している。
1962年の2月5日に自動車事故のためわずか27歳で亡くなったため、いわゆるジャズ・ジャイアントと呼ばれることは少ないが、 ジャッキー・マクリーンの『4, 5 and 6』やリー・モーガンの『キャンディー』など、 ダグが参加したアルバムで名盤といわれるものはたくさんある。

さて、今回ご紹介するのはそういう彼のわずか2枚のリーダー・アルバムのなかの1枚、 『ワトキンズ・アット・ラージ』である。



このアルバムはTRANSITIONという超マイナー・レーベル(あのセシル・テイラーの初リーダー・アルバム 『ジャズ・アドヴァンス』で有名)への吹込みであるため、長い間幻の名盤と呼ばれていたものである。

パーソネルはドナルド・バードのトランペット、ハンク・モブリーのテナー・サックス、 ピアノがデューク・ジョーダン、ギターにケニー・バレル、アート・テイラーのドラムスに ダグというもの。
メンバーを見ただけで、リラックスした心温まるセッションであることが想像できると思うが、 トラディショナルの「Phil T. McNasty's Blues」に始まって、バレル作の「Phinupi」までの5曲は いずれも肩の凝らぬ演奏ばかりだ。
というと、ぬるま湯のようなセッションを思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれないが、 この日はフロントを務めるバードもモブリーも絶好調で、1曲目からぶんぶん飛ばしている。
ダグのベースも、いわゆるウォーキング・ベースなのだが、気心の知れたアート・テイラーとがっちりした音楽の土台を作っている。
そして、ジョーダンのピアノが、これまた相変わらずの歌心あふれる素晴らしいピアノで、ブルージーなバレルと 好対照な演奏を聞かせてくれる。

土曜の夜や日曜日の昼下がりなどに、ちょっと気持ちのいいジャズを聴きたいなと思うときにはうってつけのアルバムである。

なお、タイトルはライヴっぽいし、フロント・カヴァーにも「in LIVE CONCERT FIDELITY」と書いてあるが、ライヴではない。
また、東芝から復刻されたアナログ盤とCDでは曲順が違っているが、ここではアナログ盤の曲順で紹介している。

DOUG WATKINS "WATKINS AT LARGE"
TRANSITION TRLP 20

2005/03/27 © ryo_parlophone





JAZZの愛聴盤-12

30年も前のことになるが、チャールズ・ミンガスの『ミンガス・プレゼンツ・ミンガス』の国内盤が発売される夢を 見たことがある。

そのころ、このアルバムは所謂幻の名盤であった。
ミンガスに名盤といわれるものは『直立猿人』を筆頭に数え切れぬほどあるが、『ミンガス・プレゼンツ・ミンガス』は CANDIDというマイナー・レーベルであること、エリック・ドルフィーが参加していること、 有名な「フォーバス知事の寓話」が収められていること、この3点から特に幻の名盤の誉れ高いものであった。
今のようにインターネットもレンタルのCDショップもない時代で、いかに素晴らしいアルバムであるかという評論や記事を読むにつけ、 レコードを聞きたくて聞きたくてしょうがないのだが、長い間廃盤で手に入れることはほとんど無理だった。

ところがある日、何気なく新聞のテレビ欄を眺めると、いちばん右端に大きく、「『ミンガス・プレゼンツ・ミンガス』ついに発売!」 と書いたビクター音楽産業の広告が載っているではないか!

やったー、と大興奮して目が覚めた。
夢だったのである。



それからどれくらいたっただろうか。
ついにほんとうに国内盤が発売される日がやってきた。
発売日に手に入れて、家に帰ってターンテーブルに載せるときの胸の震えは今でも忘れられませんね。
そして、「フォーバス知事の寓話」は聞きしに勝る大名演だった。

"CHARLES MINGUS PRESENTS CHARLES MINGUS"
CANDID 9005

2005/03/05 © ryo_parlophone




「フォーバス知事の寓話」について

この曲について幻燈遮断機さんからご質問があったので、ご存知の方も多いかもしれないが簡単に補足しておきたい。

フォーバス知事というのは1957年当時のアーカンソー州知事だ。
当時アーカンソー州には、白人だけが通うリトル・ロック・セントラル・ハイスクールという高校があった (すでに1954年、連邦裁判所のブラウン判決によって、公立学校における人種隔離政策は違憲との司法判断がなされていた にも関わらず、である)。

公民権運動の高まりのなかで、このリトル・ロック・ハイ・スクールに、9名の成績優秀な黒人生徒が入学手続きを取る。
それはひとつにはフォーバス知事が当時民主党リベラル派に属していて、黒人生徒が入学することが 人種隔離政策の打破につながるという読みが、公民権運動の活動家グループにあったからだといわれている。

入学式当日、リトル・ロック・ハイ・スクールは人種統合に反対する白人たちによって占拠され、 9人の黒人生徒とその入学を支援する活動家グループは繰り返し妨害行為を受けることになった。

ところが、再選のために白人票が流出するのを懼れたフォーバス知事は「治安維持」の名の下に州兵を派遣、 暴動を収拾するという名目で黒人生徒を追い払おうとしたため、 けっきょくその日9人の生徒は入学することができなかった。

これでミンガスは怒っちゃった。
フォーバス知事をけちょんけちょんにやっつける曲を作って、レコーディングしたのが、 この「フォーバス知事の寓話」というわけで、オリジナルは幻燈さんがおっしゃっていたように、 『MINGUS AH UM』(1959 COLUMBIA CS 8171)に収められている。
これが米メジャー・レーベルであるコロンビアからリリースされたことはすごいことだと思うけれど、 内容的にはミンガス自身が納得できるものではなかったのだろう。
キャンディド版は、この曲のアップグレード・アジテーション・パワーアップ・ヴァージョン(笑)で、 迫力は比べものにならない。
再演にもかかわらずタイトルが「Original Faubus Fables」になっているのは、 『AH UM』版がレコード会社からのなんらかの圧力によって修正された?ことの示唆なのかもしれない。

2005/07/17 © ryo_parlophone





JAZZの愛聴盤-11

2か月ぶりの愛聴盤です。

今回もまたジャケ買いして損のない1枚(このところこんなんばっかだなあ……)。



Verve のバディ・デフランコにはキュートな女性のアップをフロント・カヴァーに使ったものが何枚かあって、 これもその1枚。ついついレジに運んじゃいます(笑)。
しかもこのころのレギュラー・クインテットはタル・ファーローのギターにソニー・クラークのピアノ、 とメンバー的にも申し分ない。

そして、このアルバムはオープニングがすばらしい!
「Getting A Balance」この1曲だけでも買う価値ありです。
曲はデフランコとクラークの共作になるオリジナルで、カウント・ベイシーを思わせるようなスウィンギーなナンバー。
ベースとギターのイントロ12小節に、ドラムが加わってさらに12小節、それからやっとクラリネットとギターがユニゾンでテーマを奏でる、 この何気ない演出がほんとうにうまい。
そのままデフランコが軽快でよく歌うソロを取るが、つづくクラークはお得意のややブルージーなソロでご機嫌だし、 タルの低域を多用したソロも申し分ないものだ。
クラークがアメリカで売れなかったのがほんとうに不思議でならない。
後テーマではクラとギターに、クラークのオルガンが入って、アウトロはまたベースとギターのデュオで12小節。
このアレンジも粋なものだ。
約9分の演奏がほんとうに短く感じるすばらしい演奏だ。

つづくハロルド・アーレンの「That Old Black Magic」のデフランコの急速調のソロも洒脱でスウィンギー、 この日のデフランコがほんとうに絶好調だったことがよくわかる。

ちょっと残念なのは、Side-2の冒頭でバラッドである「But Beautiful」と「The Nearness of You」が 同じようなテンポでつづけて演奏されることで、このへんにもう少し工夫があれば、もっと印象的なアルバムになっていたのに と惜しまれる。

BUDDY DE FRANCO "sweet and lovely"
Verve MGV-8224

2005/02/02 © ryo_parlophone





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