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JAZZの愛聴盤-25

セロニアス・モンクの代表作の一つである「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」は、モンク自身の演奏もさることながら マイルズ・デイヴィスのクインテットによる名演でも広く知られている。
けれどもそのマイルズよりも早くこの曲をクインテットで吹き込んでいたのがケニー・ドーハムだ。

チャールズ・ミンガスの『直立猿人』での演奏で知られるJ.R.モンテローズをテナーに据えて、 ドーハムがザ・ジャズ・プロフェッツというグループを結成したのは1956年初頭のことだと思われるが、 4月4日にはクリード・テイラーをプロデューサーに迎えてファースト・アルバムを録音、 つづいて5月31日にはブルーノートに当アルバム『アット・ザ・カフェ・ボヘミア』を吹き込んでいる。
ジャズ・メッセンジャーズを退団したドーハムが、当時いかに注目されていたかがよくわかるだろう。



アルバムはドーハムのオリジナル「MONACO」で始まる。
ピアノとベースが絡んだ印象的なイントロのから、いかにもドーハムらしいマイナーな曲調のテーマが提示され、 ダブル・テンポになってまずドーハムが出る。
細かな音をいくつも敷きつめて布地を織るように構成されていくドーハムのソロは、 後期印象派の点描派をイメージさせもするすばらしいものだ。
つづくJ.R.のソロも、くすんだ音色で曲調にふさわしいメランコリックなメロディを紡いでいく。
アルフレッド・ライオンの要請でこの日の途中から参加したというケニー・バレルもスウィンギーで、 アルバムは好調な滑り出しだ。

つづく「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」は、マイルズのコロンビア盤に先立つこと4か月だが、 モンクの作品の孤独な美しさを見事に描き出している。
短いがボビー・ティモンズ(p)のソロも、マイナーななかに彼らしいファンキーな味わいが出たいいソロである。

3曲目の「MEXICO CITY」はドーハムのオリジナルとクレジットされているが、曲はバド・パウエルの 「テンパス・ヒュージット」。
アーサー・エッジヒル(ds)のスポンティニアスなバッキングに支えられて、ここでもドーハムがすばらしいソロを聞かせる。

Side-2は「チュニジアの夜」で幕を開ける。
のちのジャズ・メッセンジャーズの演奏のような派手さはないが、9分を超える熱演である。
ここではドーハムもさることながら、個性的なJ.R.、珍しく早弾きを駆使して縦横無尽なソロを繰り広げる バレルのソロがじつに見事だ。

さらにピアノ・トリオをバックに、これぞバラードのお手本とでもいうべきドーハムの美しい 「ニューヨークの秋」をはさんで、最後はドーハムのオリジナル「HILL'S EDGE」で幕を閉じるのだが、 ここではスウィンギーなバレルとティモンズの好演が光る。

アルバム・タイトルには「ボヘミア」というエキゾチックな地名がついているが、それ以外にもモナコ、 メキシコ、チュニジア、ニューヨークと地名を織り込んだ曲が並び、洒落たアルバムになっている。

なお、ABCに吹き込んだファースト・アルバムも地味ながらなかなか味わいのある作品で、 こちらはぜひリマスタリング、紙ジャケでCD化してほしいところである。

KENNY DORHAM
"'ROUND ABOUT MIDNIGHT AT THE CAFE BOHEMIA"
BLUE NOTE 1524

2006/05/24 © ryo_parlophone





JAZZの愛聴盤-24

ぼくは「Just Squeeze Me」という曲が大好きで、コルトレーンを擁したマイルズ・クインテットのアルバムのなかでは ほとんど目立たない『MILES』もこの曲が入っているために愛聴しているくらいだが、 最高の名演はやはりジョー・スタッフォードが歌ったこのアルバムのなかの1曲だろう。

今回ご紹介する『Jo+Jazz』というアルバムはジョーの1960年の作品で、このとき彼女は40歳。
コンテ・カンドリ(tp)、ジミー・ロウルズ(p)、ラス・フリーマン(celesta)、ジョー・モンドラゴン(b)といった ウエスト・コーストの錚々たるミュージシャンとレイ・ナンス(tp)、ローレンス・ブラウン(tb)、 ジョニー・ホッジス(as)、ベン・ウェブスター(ts)、ハリー・カーネイ(bs)といったエリントン楽団のスターたちが参加して、 ジョニー・マンデルがアレンジを担当した、彼女の代表作である。



岩浪洋三のライナーによるとジョー自身が原盤を米コロンビアから引き上げてしまい長いあいだ廃盤の憂き目にあっていたのを、 CBSソニーが直接本人と交渉して販売権を獲得、発売にこぎつけたものだという。
このアルバムが発売された1979年当時にFMで、彼女の歌う「Just Squeeze Me」を聴いて、 即座にアルバムを買ったような記憶がある。

曲はジョニー・ホッジスのアルトに導かれて始まり、そこにジョーの優雅で気品のあるヴォーカルがかぶさってくる。

Treat me sweet and gentle When you say goodnight
Just squeeze me But please don't tease me.
I get sentimental When you hold me tight
Just squeeze me But please don't tease me.

う〜ん、なんて素敵な歌詞だろう。
2コーラス目におけるジョーのメロディの崩し方も見事なものだし、それを受けて出るホッジスのソロも、 なめらかで艶やかなスウィングのお手本のようなソロだ。

ジョニー・マンデルのアレンジは3本のトランペットを中心に、トロンボーンやバリトンを巧みに配した絶妙なアレンジで、 そこはかとなくエリントン・ムードが漂う。

ホッジスのアルトはB-5の「Day Dream」でも幻想的なソロを聞かせるし、 ベンはA-4の「帰ってくれればうれしいわ」やB-6の「I've Got the World on a String」でスウィンギーながら 優雅なソロを聞かせてくれる。

わが国では「帰ってくれればうれしいわ」というと、やはりなんといってもヘレン・メリルの名唱に人気があるが、 ジョーの歌うこの曲もゆったりとしたテンポの中に気品溢れるもので、ヘレンとはまた違った魅力をもっている。

B-1の「What Can I Say After I Say I'm Sorry」など、もう少し軽さがあってもいいかな、と思う部分もあるが、 B-2のバラード「Dream of You」なんかは、マイクにぐっと近づいて歌っているのだろうか、 その声にすごいリアリティーがあって、大人の女性らしい気品のある色香に聴いているだけでぞくぞくしてしまう。

現在、このアルバムの版権がどうなっているのか知らないが、ぜひ紙ジャケでリリースしてほしいアルバムだ。

JO STAFFORD "Jo+Jazz"
COLUMBIA CS 8361

2006/04/21 © ryo_parlophone





JAZZの愛聴盤-23

このアルバムは、まだジャズを聴きはじめたばかりのころたまたま入ったレコード・ショップで手に入れた。
決め手になったのは「スイング・ジャーナル・ゴールド・ディスク」のシール。
今のようにいろんな情報が溢れている時代ではなかった。
「ゴールド・ディスク」というのは安心のマークだったなあ。

メンバーも魅力的だった。
ジャッキー・マクリーンのアルト・サックス、ドナルド・バードのトランペット、ピアノはマル・ウォルドロン、 ベースがダグ・ワトキンズ。
ドラムスはロナルド・タッカーという、この人はまあいいや(笑)。



録音は1955年の10月21日。
この55年という年はハード・バップがのろしを上げた年である。
前年の54年にはマイルズがソニー・ロリンズと「エアジン」などを録音し、西海岸ではクリフォード・ブラウンが マックス・ローチとレギュラー・クインテットを結成して活動を始めた。
55年に入るとアート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズやジョージ・ウォーリントン・クインテットが 相次いで結成され、9月にはコルトレーンを含むマイルズのオリジナル・クインテットが活動を開始する。
そんななかで録音されたジャッキー・マクリーンにとっては初リーダー・セッションである。
ドナルド・バードとはジョージ・ウォーリントン・クインテットで一緒にフロント・ラインを務めた仲で、 気ごころの知れたコラボレーションを聞かせる。

聴きどころはなんといってもA面の3曲である。
アルバムは40年代の映画音楽である「It's You or No One」で始まる。
アップ・テンポながらロマンティックなマルのイントロにつづいて、マクリーンとバードが交互に メロディを吹いていく。
ソロはマクリーン〜バード〜マルの順だが、朗々と鳴らしながらもフレーズの端々にわずかな陰りのようなものを 見せる緩急をつけたマクリーン、メロディアスなバード、愛らしいマルのソロ、そしてフォー・バースに入る その最初のマクリーンがまたすばらしい。

2曲目の「Blue Doll」は妻のドールをテーマにしたマクリーン自作のブルーズ。
マクリーンは堂々たるソロで、バップ・イデオムが新しいジャズの領域を広げていったその成果を見せてくれるし、 バードのソロはとくに前半部がマイルズを髣髴とさせて興味深い。
マルのソロは陰影のあるじつにすばらしいものだが、後ろのタッカーのシンバルやリム・ショットがうるさいのが 玉に瑕だ。
ドラムを勉強してるよい子のみんな、マネしないでね(笑)。

そしてこのアルバムの白眉はこれ以降マクリーンの代表作にもなる「Little Melonae」。
愛娘メロネーに捧げた曲だ。
屈折したメロディーを持つ大変に印象的なAABA形式の曲で、Bのパートはベースのソロになっている。
先発のマクリーンのソロは聞き手の予想を裏切るような想像力に満ちたものだし、バードもこの難しい曲想を 見事に展開してみせる。
そしてマクリーンのソロの一フレーズを最後に引用すると、つづくマルもそのフレーズからソロを始めるといった具合で、 じつに見事なアンサンブルになっている。

じつはこの録音の5日後にマイルズのクインテットもこの曲を録音していて、そこでのマイルズやコルトレーンの ソロはまあ平均点ぐらいの出来だと思うが、オリジナルにはなかったピアノのイントロがすばらしいし、 ガーランドのソロは中低域を主にしたふだんとはまったく趣きの異なるものなので、 未聴の方は機会があれば聴いていただきたいと思う。

さてもうひとつのハイライトがラストに収められた「Lover Man」だ。
アルバムを買ったときのお目当てはじつはこの「Lover Man」だった。
レコーディングの半年前に当たる1955年の3月にチャーリー・パーカーは亡くなっていて、 当時マクリーンはひどく落胆したらしいが、この曲を初リーダー・セッションで取り上げるというのは、 パーカーに対するトリビュート的な気持ちもあったのかもしれない。
ダグ・ワトキンズのアルコとマルの見事なイントロからマクリーンのいささかも間然するところのない すばらしい演奏が始まる。
これで23歳というのだから、このころのジャズメンはみんなすごかったなあ。

買ってしばらくしてから、このアルバムがファンの間では「ネコのマクリーン」と呼ばれて 人気があると知った。
ネコ? ……どうみてもこれはフクロウじゃないのか、と長いあいだ疑問だったのだが、 4年前に紙ジャケ化されたときにやっと謎が解けた。
このアルバムの原盤は「アド・リブ」という超マイナーなレーベルで、ぼくが買ったアナログ盤は ジュビリー・レーベルから再発されたものの国内盤だったのだが、紙ジャケになるとき オリジナル・ジャケットで復刻されたのだ。



たしかに「ネコ」でありました。

"jackie mclean"
ad lib 6601

2006/03/18 © ryo_parlophone





JAZZの愛聴盤-22

ギル・エヴァンスは自分のオーケストラのトランペットにマイルズが欲しいとき、 よく代役としてジョニー・コールズに吹かせたらしい。
御大マイルズはスケジュールやギャラの関係でなかなか使えないが、コールズなら暇だし マイルズそっくりの音を出してくれるというわけだ。 そんなジョニーのことを「マイルズ・デイヴィスの影武者」と呼んだのは評論家の油井正一だったかしら。

しかし「きみのトランペット、マイルズにそっくりだね」と言われて喜んでいいのはアマチュアだけで、 プロのミュージシャンにとっては「お前の演奏はモノマネだ」と言われているに等しい。
けっきょくジョニー・コールズは一流のトランペッターにはなれなかった。
前述のギル・エヴァンス・オーケストラやチャールズ・ミンガスのグループで、いくつかの印象的なソロを残しているが、 リーダー・アルバムとなると本作を入れてわずかに4枚である。



さて、ブルーノートに残されたこのアルバムは、レオ・ライト(as, fl)、ジョー・ヘンダースン(ts)、 デューク・ピアスン(p)、ボブ・クランショウ(b)、ウォルター・パーキンス(ds、A面)、ピート・ラロカ(B面)という セクステットによる1963年の録音だ。
速いパッセージを吹くでもなく、ハイノートをヒットするわけでもない、 そしてとくにメロディアスともいえないジョニー・Cのソロは、それでも静かで落ち着いたたたずまいを示し、 一部のファンには根強い人気があるのだろう。

たとえば冒頭のタイトル曲はピアスンのペンになるミディアムのブルーズで、 先発のレオ・ライトは張り切ってじつにエモーショナルなソロを展開するのだが、 つづくジョニー・Cのソロは2年ぶりのリーダー・セッションとは思えない落ち着きぶりで、 サウンドはウォームだが構成としてはじつにクールなものだ。

そういう彼のスタンスがほかのメンバーにも伝わるのか、2曲めの「Hobo Jo」はジョー・ヘンが書いた、 ちょっとリー・モーガンの「サイドワインダー」風のジャズ・ロックなのだが、最初に出るジョニー・Cのソロはもちろん、 フロント3人のソロはじつにおとなしい控えめなソロになっている(笑)。

そういう彼の美点が遺憾なく発揮されるのは、B面ラストの「So Sweet My Little Girl」というバラードで、 ほかの楽器のアンサンブルに載って静謐なテーマを吹くジョニーのトランペットはじつに美しい。

しょっちゅう聴きたいというわけではないが、ちょっと疲れた体を心を癒したいときになんとなくターンテーブルに載せてみる、 そんな1枚だ。

JOHNNY COLES "little johnny c"
BLUE NOTE BST-84144

2006/02/10 © ryo_parlophone





JAZZの愛聴盤-21

いつもは入門書などには載らないちょっとだけマイナーな愛聴盤を紹介しているこのコーナー、 今回は大名盤トミー・フラナガンの『オーヴァーシーズ』だ。

なんといっても『スイング・ジャーナル』誌選定ゴールド・ディスク第1回受賞作品なわけで、 ぼくがジャズを聴きはじめた70年代の初めごろには、ゴールド・ディスクといえばそれだけで名盤だった。
同誌のジャズ・ジャーナリズムにおける影響力が今とは比較にならないほど大きかったからだ。
しかしそういう注釈がなくても、やはりこれはすばらしいアルバムである。

『オーヴァーシーズ』はその名のとおりストックホルムで録音されていて、メンバーはピアノのトミ・フラ、 ベースがウィルバー・リトル、ドラムスがエルヴィン・ジョーンズという顔ぶれ。
この3人は1957年当時のJ.J.ジョンソン・カルテットのリズム隊で、楽旅でスウェーデンを訪れたときに ボス抜きで録音されたものだ。



トミー・フラナガンという人はジャズ史に名を残すような巨人ではないし、そのプレイもけっして派手ではない、 いぶし銀のようなピアニストなのだが、ソニー・ロリンズの『サキソフォン・コロッサス』、 ジョン・コルトレーンの『ジャイアント・ステップス』というテナーの2大巨人の2大名盤でピアノを弾いている。
しかもこの人の果たした役割はけっして小さくはないから、もしこの2枚のアルバムのピアニストがトミ・フラでなかったら、 現在のような評価を得ていたかどうかは疑わしい、そんな名ピアニストなのだ。
そしてもうひとり、60年代のコルトレーン・カルテットでリズムのかなめの役割を果たした エルヴィンの参加も興味を惹かれるところだ。

このアルバムを聴いてまず感心するのは選曲と配曲のバランスのよさだ。
まずバードの軽快なブルーズ「リラクシン・アット・ザ・カマリロ」でアルバムは幕を開ける。
意外な力強さでしなやかにスイングするトミ・フラのピアノに軽い驚きを覚える間もなく、 曲はビリー・ストレイホーンの美しいバラード「チェルシー・ブリッジ」へと移る。
そのまま美しい曲になりそうなアドリブに耳を奪われているうちに、倍テンポになって聞き手をグッとつかんだかと思うと すぐに後テーマが流れあっという間に曲が終わってしまう。
つづく3曲目は後にアルバム・タイトルにもなったトミ・フラのオリジナル「エクリプソ」。
ラテン・リズムをあしらった印象的なテーマを持つ曲で、軽快なピアノとともに、ブラシを使って煽るエルヴィンも聞き逃せない。

こんな調子でトミフラのオリジナルが2曲続いてA面が終わると、 B面の1曲目はあきらかにこのアルバムのハイライトである「リトル・ロック」だ。
このタイトルはミンガスの「フォーバス知事の寓話」で有名なアーカンソー州のリトルロックとは何の関係もない。
ライナーノウツを読むとベーシスト、ウィルバー・リトルのオリジナルで、「リトルのスイング」といった意味らしい。
そのリトルのベース・ソロから始まるこの曲は7分という長さをまったく感じさせない名演で、 一分の隙もなくスイングするピアノとそれを鼓舞し続けるエルヴィンのブラッシュ・ワーク、 そして野太いリトルのベースがじつに巧みな調和を保っている。

アルバムはもともとスウェーデンのメトロノームというレーベルに吹き込まれたが、のちにプレスティッジが音源を買い取って 広く聴かれるようになった。
初めわが国で紹介されたときは、権利の関係だろう、トミーの横顔を使った独自のジャケットだったが、80年代に入って プレスティッジのオリジナル・ジャケットが復刻された。
"Overseas"を"Over Cs"とシャレたアート・ワークで、とてもすっきりしたデザインだ。
ぼくが持っているのもテイチクからリリースされた国内盤で、オリジナルでは"PRESTIGE 7134"となっている部分が"METRONOME"と 表記されている。

この大名盤がわが国では長い間廃盤の憂き目にあっていて、OJCのCDでしか手に入らない。
ぼくの持っているアナログ盤は音がいいとはいえないので、ぜひ最新のリマスター、紙ジャケでリリースしてほしいものだ。

TOMMY FLANAGAN "OVERSEAS"
PRESTIGE 7134

2006/01/05 © ryo_parlophone





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