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JAZZの愛聴盤-37

今から21年前、1988年に結婚したとき、ぼくは持っていたレコードのほとんどを処分してしまった。
ジャズを中心にロックやクラシックのレコードも含めておよそ700枚。
ひとつはコレクションの整理というつもりだった。
ほとんど聴かないレコードもあったし、結婚して部屋が手狭になったということもあった。
時代はちょうどレコードからCD に移っていくところだったから、いちどコレクションをチャラにして、ほんとうに聴きたいアルバムはCD で買いなおそう、という気持ちだった。

あと、生活も苦しかった(笑。

その処分したレコードのなかに今回ご紹介するマリオン・ブラウンの『ノヴェンバー・コットン・フラワー』も、あった。
そのときはまさかその後21年間もこのアルバムを聴くことができないとは思いもしなかったのだ。
3月にハンブル・パイ、カーティス・メイフィールド、トミフラの『オーヴァーシーズ』…と紙ジャケが出たとき、真っ先に買ったのがこれです。



それくらいこのアルバムが聴きたかった…。

今聴けて幸せ♪

マリオン・ブラウンというサックス奏者はフリー・ジャズのプレイヤーとしてカテゴライズされることが多いけれど、このアルバムのマリオンは、ジャズの理論や精神性の追求を置いて、唄を歌うことに専念しているように見える。

アルバムはタイトル曲の「November Cotton Flower」から始まる。
ジャケットの表も裏も綿畑一面に咲き乱れる綿花(コットン・フラワー)が写っている。
しかしじつをいうと綿に花は咲かない。
花のように見えるのは綿の種を包んでいる白い繊維だ。
しかも綿花は初夏には摘み取られてしまう。
したがって「November Cotton Flower」というのは、ひとつの心象世界だ。

コルトレーンとの共演でも知られるアール・メイが弾くゆったりとしたベースに導かれるようにマリオンのアルト・サックスが穏やかで牧歌的なテーマを奏でる。
すぐにヒルトン・ルイーズのピアノ・ソロになり、次いでカール・ラウシュのアコースティック・ギターがソロを引き継ぐ。
いずれもアメリカ南部の綿畑ののどかな風景を思わせるような抒情的で美しいソロだ。
やがてマリオンのソロになる。
ときおりフリーキーなトーンが混じることもあるが、テーマのメロディにもとづいた豊かで美しいアドリブだ。
そのあとに出るアール・メイのベース・ソロも味わいがある。

綿畑というと、マリオンのお祖父ちゃんか曾お祖父ちゃんぐらいの世代のころには奴隷として過酷な労働を強いられる現場であったに違いない。
しかしこの演奏に、そういうものを連想させる悲惨さも、怒りも、苛立ちも感じ取ることはできない。
あるのは穏やかで美しい唄だ。

つづくA-2「La Placita」はカリプソのリズムによる、陽気なミディアム・テンポのナンバー。
もともとアメリカ黒人の出自をたどるとアフリカから西インド諸島を経由していることが多いので、ロリンズの「セント・トーマス」にしろ、この曲にしろ、そうした背景をもっているのだろう。

B-3「Sweet Earth Flying」は同名タイトルのアルバムに収められていた曲の再演。
マイナーな曲調をもつテーマからそのままマリオンのアドリブに流れていくが、マリオンはこのアルバムでは珍しく魂の慟哭のような激しいトーンを聞かせる。

"NOVEMBER COTTON FLOWER" MARION BROWN
BAYSTATE

2009/05/19 © ryo_parlophone





JAZZの愛聴盤-36

ビル・エヴァンスが盟友ともいうべきスコット・ラファロを自動車事故でなくしたのは1961年7月6日のことだった。
それからしばらくはレコーディングもライヴも考えられないほどの傷心の日々をエヴァンスは送ったようだ。

活動を再開したあとはクインテットでレコーディングしたりしていたが、やがてVerve レーベルに移籍して再び精力的にアルバムをリリースするようになる。

きょうご紹介する『トリオ '64』は1963年12月13日の録音で、ドラムスは以前と同じポール・モチアン、ベースはゲイリー・ピーコックが務めている。



ぼくはピーコックのベースが大好きで、80年代にECM レーベルにキース・ジャレット(p)、ジャック・ディジョネット(ds)と吹き込んだ「TALES OF ANOTHER」なんかも愛聴盤だった(いまは手元にレコードがないので、そのうちCD を手に入れたらご紹介しましょう)。

ここでのピーコックはラファロほどの流麗さには欠けるがじゅうぶんかれの代役を果たしているといえるだろう。
従来のリズム・キープとしてのベースではなく、素早いパッセージを繰り出しながら、よく歌い、エヴァンスのフレーズに示唆を与えるとともにほどよい緊張感のなかでお互いのアドリブを高めてゆく役割を果たしている。

アルバムの冒頭に置かれた「Little Lulu」がとくに素敵だ。
どうやらTV アニメの主題歌らしいのだが、その愛らしいテーマがビルにぴったりだ。
ほかにも12月のレコーディングだったからだろうか「サンタが街にやってくる」なども取り上げており、これらのいわゆるノヴェルティ・テューンを弾くエヴァンスはいかにも楽しげで活き活きとしている。

レコードでいえばB面に当たるM-6「For Heaven's Sake」、M-7「Dancing in the Dark」あたりのエヴァンスもじつに美しく、随所にかれらしい卓越したハーモニーのセンスと、繊細で抒情性に満ちた幻想的ともいえるフレーズを聴くことができる。

"TRIO 64" BILL EVANS
Verve V6-8576

2008/03/24 © ryo_parlophone





JAZZの愛聴盤-35

モダン・ジャズを聴き始めてしばらくすると、ジャズの歴史を塗り替えるような働きをしたジャズ・ジャイアントどうしの競演というものに興味がわいてくる。

たとえば、ファッツ・ナヴァロとバド・パウエルの喧嘩セッションとかマイルズ・デイヴィスとセロニアス・モンクのクリスマス・イヴの喧嘩セッション、ソニー・ロリンズとジョン・コルトレーンのただ一度のテナー・バトルとか、コルトレーンとモンクの伝説のファイヴ・スポットのライヴ…。

そして今度はこんなのを聴いてみたかった…という夢想も出てくる(笑。
たとえばフォト・セッションでは残っているマイルズとクリフォード・ブラウンのトランペット・バトルとか。
評論家の悠雅彦はエリック・ドルフィーとモンクがもし共演をしていたらどんなに素晴らしい演奏を残していただろうと残念でならない…という意味のことをどこかで書いていた。

そこできょうの本題。
みなさんはコルトレーンがもしジャズ・メッセンジャーズに在籍していたら…と考えたことはありませんか?

豪放磊落でファンキーの塊りのようなブレイキーと神の国への接近を希求していたコルトレーンではまったく合わない、とも思う人もいるかもしれないが、じつはあるんですね、そういう音源が。

それがこれ。



1957年12月にベツレヘム・レーベルで録音された『アート・ブレイキーズ・ビッグ・バンド』は、ドナルド・バード(tp)、レイ・コープランド、ビル・ハードマン、アイドリース・シュリーマン、ジミー・クリーヴランド(tb)、メルバ・リストン、フランク・ハリク、ビル・グラハム(as)、サヒブ・シハブ、ジョン・コルトレーン(ts)、アル・コーン、ビル・スラビン(bs)、ウォルター・ビショップJr.(p)、ウェンデル・マーシャル(b)、アート・ブレイキー(ds)というなかなか豪華なメンバーによるビッグ・バンド・ジャズだが、このなかに2曲だけクインテットによる演奏が収録されている。

これがドナルド・バード(tp)、ジョン・コルトレーン(ts)、ウォルター・ビショップJr.(p)、ウェンデル・マーシャル(b)、アート・ブレイキー(ds)というメンバーでじつにいいのだ。
在籍というわけではないけれど、ブレイキーはこのメンバーで2〜3枚アルバムを作りたかったのではないだろうか。

演奏されるのは「Tippin'」というバードのオリジナルと、「Pristine」というコルトレーンのオリジナルで、メンバー全員がノリにノった快演を聞かせる。
57年12月というとトレーンはすでにシーツ・オヴ・サウンドを完成させていて疾走感あふれるソロを展開するが、バードも快調らしくハイ・ノートをヒットする張り切ったソロを聞かせる。
とくにバードの「Tippin'」は「クール・ストラッティン」と「FUEGO」の「Low Life」を足して2で割ったようなマイナー調のファンキーなナンバーで、トレーンはめずらしくブロウから入るし、チャーリー・パーカーとの共演で知られるウォルター・ビショップJr.もハード・バピッシュで味わいのあるソロを聞かせてくれる。

残り6曲のビッグ・バンドの演奏はどうかというと、これも悪くない。
アレンジは主にアル・コーンが手がけているようだが、ビッグ・バンドらしい楽しさ溢れるオープニングから、アフロ・キューバン調の「El Toro Valiennte」や、多彩なリズムの変化と抑揚のあるメロディをブラスとホーンで陰影感をもって描き分ける「Late Date」、美しいバラードの「The Kiss of No Retern」など、ビッグ・バンドのアレンジを知り抜いたコーンらしい都会的で洒落た味わいのあるアレンジに仕上げている。

コルトレーンは全編にわたって溌剌としたプレイを聞かせるが、バリトンで有名なサヒブ・シハブもパーカー直系のいいアルト・ソロを披露する。

先月出た紙ジャケはK2 HD マスタリングでステレオ初期の録音ながらなかなか瑞々しい音だ。

"ART BLAKEY'S BIG BAND"
BETHLEHEM BCP 6027

2008/01/19 © ryo_parlophone





JAZZの愛聴盤-34

ブルーノートにはぼくが密かにBM 3部作と呼んでいるアルバムがある。
ジャッキー・マクリーンの『ニュー・ソイル』(BLP 4013)、ドナルド・バードの『フュエゴ』(BLP 4026)、そして今日ご紹介するウォルター・デイヴィス Jr.の『デイヴィス・カップ』(BLP 4018)だ。



もうお分かりかも知れないが、BM というのはByrd McLean、つまりドナルド・バード(tp)とジャッキー・マクリーン(as)のこと。
このふたりはよっぽど相性がよかったとみえて、名作をたくさん残している。
プレスティッジから再発されるまでは幻の名盤の誉れも高かった『カフェ・ボヘミアのジョージ・ウォーリントン』(1955年・プログレッシヴ LP 1001)もそうだし、以前このコーナーでもご紹介した通称「ネコのマクリーン」、『ジャッキー・マクリーン・クインテット』(同年・アドリブ 6601)もそうだ。

そして上記ブルーノートの3枚のアルバムでも、ブリリアントな音色と流麗なフレーズ、メロディアスでありながら知的で洗練されたアドリブで甲乙つけがたいソリストぶりを見せつける。

これらのアルバムが録音された1959年というと、2人は27〜8歳、押しも押されもせぬモダン・ジャズ界のスターだったはずで、ドナルド・バードはペッパー・アダムスと組んだ双頭コンボで人気を博し、マクリーンは新主流派への萌芽が感じられる先進的なソロを取っていた。

そしてこの3枚に共通しているのは収められているオリジナル曲のすばらしさだ。
ちなみに『ニュー・ソイル』もピアノはウォルター・デイヴィスで、そこには「Davis Cup」という曲も収録されている。

83年ごろだったと思うが、ぼくはジャズ・メッセンジャーズの一員として来日したウォルター・デイヴィスを見ている。
ヒゲ面の巨漢という外見に似合わず、そのソロはいずれも端正で簡潔な美しさをたたえていて、ウォルターってこんなに素晴らしいピアニストだったのかと認識を新たにしたものだ。

今日ご紹介する『デイヴィス・カップ』(もちろんテニスのデビスカップにかけたタイトル)は1959年8月に吹き込まれたウォルター初のリーダー・アルバムで、収められた6曲はすべてかれのオリジナル。
サム・ジョーンズ(b)、アート・テイラー(ds)という安定したリズム隊を率いて、作曲にアレンジにソロにバッキングにと、とても初リーダー作とは思えない活躍ぶりを見せている。

WALTER DAVIS JR. "DAVIS CUP"
BLUE NOTE BLP 4018

付記:これ以外にもブルーノートにはバード/マクリーンでコンビを組んだ作品がいくつかある。
そのうちの1枚、『バード・イン・フライト』(BLP 4048)のマクリーンが参加したB面は名曲「マイ・ガール・シャール」を含む傑作だが、人気の高い『ジャッキーズ・バッグ』(BLP 4051)は、いいのはブルー・ミッチェル(tp)やティナ・ブルックス(ts)が参加したB面のほうで、バードとソニー・クラーク(p)が参加したA面は残念ながらバードの出来があまりよくない。

2007/11/14 © ryo_parlophone





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