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with the beatles

(catalog number) MFSL-1-102
(release date/Box Set) Sept. 1982
(release date/ Series ) Nov. 1986
(release date/UK Export) Mar.1987


ビートルズのモービル盤のなかではもっとも手に入りにくいといわれている『ウィズ・ザ・ビートルズ』ですが、 今回ぼくが入手したのは82年にリリースされたボックス・セットのなかの1枚です。
では簡単なモービル盤のヒストリーとともに今回のレコードについても紹介していきましょう。

モービル・フィディリティ・サウンド・ラボ(以下モービル社)は1977年にレコーディング・エンジニアだった ブラッド・ミラーBrad Miller)氏によって設立されました。
モービル社がオーディオ・ファイル向けに手がけた「ORIGINAL MASTER RECORDING」シリーズは、 オリジナルのマスター・テープからハーフ・スピードでダイレクトにカッティングされたラッカー盤を用いて、 日本ビクターのプレス工場でスーパー・ヴァイナルという最高級の塩化ヴィニル素材にプレス、という謳い文句で 1978年2月からリリースが始まりました。
とくに79年6月に発売されたピンク・フロイドの『狂気』は大変な評判となり、 あっという間に多くのオーディオ・ファンの間で高音質レコードとしての評価を確立しました。
MFSL-1-017
MFSL-1-023
ビートルズのレコードではまず1979年の12月に『アビイ・ロード』が、ついで81年2月に 『マジカル・ミステリー・ツアー』、さらに翌82年1月には2枚組『ホワイト・アルバム』がリリースされました。
なお、『アビイ・ロード』のバック・カヴァーには、マスタリング・エンジニアとしてスタン・リッカーStan Ricker)という名前がクレジットされていました。
そして82年10月にビートルズの画期的な2つのプロダクツがリリースされます。
その一つが『サージェント・ペパーズ』のUHQR(ウルトラ・ハイ・クオリティー・レコード)であり、 もう一つが13枚組のボックス・セット『THE BEATLES - The Collection』でした。
『サージェント』のUHQR盤は5,000枚、ボックス・セットは25,000セットの限定版で、 これらは現在でもかなりの高価で取引されています。
BC-1
MFSL-1-103
その後84年に『ラバー・ソウル』、85年に通常盤の『サージェント』と『ヘルプ!』 がリリースされ、86年11月から87年の1月にかけて、残りのオリジナル・アルバムがリリースされました。
これらのアルバムはそれぞれ5,000枚から10,000枚ほどプレスされたようです。
また87年3月にはUKエクスポート用に、ジャケットを包むポリエチレン?にユニオン・ジャックをあしらった シールの貼られたものがリリースされました。
ただし、『ウィズ・ザ・ビートルズ』だけはプレス段階でスタンパーの破損事故が起きたようで、 市場には1,250枚程度しか流通しなかったといわれています。

さて、今回ご紹介する『ウィズ・ザ・ビートルズ』は前述の通りボックス・セットをバラしたもので、 単品に比べると安価でしたがそれでも通常のモ
ービル盤の3倍ぐらいの価格でした(…涙)。



ボックス・セット所収のものは単売のものと違って、マスター・テープのケースと それに貼られたログ・シートの写真がジャケットに使われているので、 コアなファンには堪らないものといえるでしょう。
スリーヴはうすくニスが塗られたような光沢のあるもので、初期の『アビイ・ロード』などに比べると 高級感があります。



表ジャケにはA面のテープ・ケースとログ・シートの写真が写っていますが、これを見ると、 このマスター・テープは63年11月1日に録音されて翌64年2月17日にシールドされ、

  • 64年3月16日〜64年6月24日
  • 66年3月28日〜66年5月3日
  • 68年10月4日〜68年10月24日
  • 69年2月18日〜69月11月17日
  • 70年1月15日〜70年2月5日
  • 70年4月28日〜70年5月20日
  • 70年7月29日〜70年9月15日
  • 76年7月6日
  • 81年7月2日

の間にそれぞれ封を開けられていたことがわかります。
また81年はその右の表記からヴェネズェラ盤のためのものだと思われます。

さらに70年7月の欄の右側には「REMIX FROM TWINTRACK TO STEREO」、「EQUALISED AND COMPRESSED」 という表記があります。
この日付は、もともとは曲目などを書き込む欄に記入されたものなので、 リミックスおよびイコライジングの表記と70年7月という日付に関係があるかどうかはわかりませんが、 このリミックスとイコライジングはモービル盤のためにおこなわれたものだという人もいます。

レーベルはおなじみのホワイト・レーベルで、レコード番号はMFSL-1-102THE BEATLES - The Collectionと書かれたレコード保護用の厚紙に挟まれています。




このレコードを最初に手にしたときに印象的だったのは、その重さです。
単売シリーズは約120gしかなくてぺなぺなした感じなのですが、ボックス・セット版は140gあり、 しっかりした重みが音のよさを表しているようでうれしくなります。

さて、それでは比較試聴してみましょう。
今回はステレオ盤5枚を聴いてみました。

試聴したのはA面の曲が中心で、ジョンの白熱のヴォーカルとコーラスの掛け合いが素晴らしい 「It Won't Be Long」と、ポールの軽やかなヴォーカルとアコースティック・ギターの美しい 「Till There Was You」、そして初期の白熱のステージを髣髴させる「Please Mister Postman」、 「Money」などを聴きました。
カートリッジはオルトフォンMC-20Sを使用しました。

まずはオリジナルのステレオ盤です。
マトリクスの枝番-2、A面のマザーおよびスタンパーは2/RPで、 おそらく65年ごろのプレス。
全体の印象としては前作の『PPM』から引き続いてパンキッシュな感じがいちばん濃厚なのがこのステレオ盤です。
音に躍動感があって、楽器とヴォーカルやコーラスが混然となって聞き手に迫ってくるようでゾクゾクします。
やや荒っぽいところもありますが迫力があって、ギターやピアノも太い音でソノリティ豊かに鳴ります。
ベースもよく出ていて音の骨格がしっかりしている感じです。
ただ「Till〜」ではヴォーカルもギターも歪みが気になります。
つづいて1EMIマークの再発盤です。
マトリクスの枝番は同じく-2、A面のマザー/スタンパーは4/OT。 69年のプレスです。
同じラッカー・マスターですから、音の傾向としては上のステレオ盤とよく似ています。
ただ全体的に少しすっきりして楽器などの見晴らしはよくなるのですが、ちょっと軽めの音になったように 感じます。
「Till〜」は迫力のある音ですが、ポールのヴォーカルがやや歪みっぽく、ガット・ギターの音もちょっとくすんで 聞こえます。
ひょっとしたら前の所有者が聞き込んで、ミゾが少し荒れてるのかもしれませんね。
つぎは70年代後半のフレンチ・プレスで、2EMIマークス。
マトリクスの枝番はやはり-2で、A面のマザー(スタンパー?)を表す数字は3?6?
1EMIに比べるとやや高域にシフトしたような音です。
低域も出ているのですが、鮮度が少し落ちたように聞こえるのは否めません。
「It Won't〜」ではジョージのグレッチがとてもいい音で響きます。
「Till〜」はポールの声がオン・マイクで、とてもリアルで迫力のある声に聞こえます。
4枚目は国内EAS規格のアップル・レーベル盤(旗帯つき)。76年以降のプレスです。
「It Won't〜」はヴォーカルもギターも音が薄くて、一瞬ちょっとピッチが早くなったように聞こえてしまいます。
シンバルは少しにじんだような感じで、芯のあるカチカチした音ではありません。
「Till〜」ではポールのヴォーカルがすっきり聞こえます。
音の輪郭はとてもくっきりとしていて低域もしっかり出ていますが、ちょっとうるさい感じに響くのが残念なところ。
最後はモービル盤で82年のボックス・セットから。
低域も高域もオリジナルよりは伸びていて、一言でいうとハイ・ファイな音です。
ヴォーカルやコーラスは楽曲全体のなかでほかの楽器と同等に"鳴っている"感じがします。
全体としては楽器の音も見通しがよくなって、ふだんは気づかないような音に気づかされたりします。
シンバルなどもクリアで美しく、芯になる音がとても実在感をもって響きます。
「Till〜」ではポールのヴォーカルもガット・ギターも大変美しい音で、とても35年も前の録音とは思えません。 この曲だけを聴くならモービル盤がいちばんだと思います。
しかし音楽のもつ迫力という点では、オリジナルには及びません。

ステレオ盤の比較表を作ってみました。

(なお、これらはぼくが所有するレコードを試聴しての個人的な好みを反映した評価です。
それぞれのレコードの音質的な優劣を表すものではありませんのでご了承ください)

イエロー 1EMI2EMIEAS盤モービル
voのリアリティー★★★★★★★★★☆★★★☆★★★★★★★★
楽器のソノリティー★★★★★★★★★★★★★★★☆★★★★★
低域の充実感★★★★☆★★★☆★★★★★★★★★★★☆
シンバルの実在感★★★★★★★★★★☆★★★★★★★
音楽としての迫力★★★★★★★★★☆★★★★★★★★★☆
アコースティックな美しさ★★★★★★★★☆★★★☆★★★★★

さて、ぼくなりの感想です。
まずモービル盤ですが、たしかにハイ・フィディリティで楽器もヴォーカルも美しく響きます。
ただ、音楽のもつ迫力という点ではオリジナル盤に大きく差をつけられるので、音楽的な嗜好からいえば評価は分かれるかもしれません。
マトリクスの枝番がオリジナルと同じ2 なら、1EMI はかなりいい線をいっていると思います。
聞き込まれたオリジナル・ステレオ盤よりは音楽が楽しめるかも知れません。
ぼくが持っている1EMI はあまりミゾの状態がよくないようなので、状態のいいものをぜひ入手してみたいと思います。

もし1枚だけ選ぶならやはりモノラル盤のラウド・カットでしょうか(笑)。
盤質のいいラウド・カットを今のうちに1枚手元に置いておくといいでしょうね。高いけど……。

なおこの記事を書くにあたって、モービル社のサイトを 参考にさせていただきました。

© 2005 ryo_parlophone

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