久々の「My Guitar Gently Weeps」、今回はマーティンのD−28です。
D−28は1931年に試作機D-2として最初の1本が生産され、34年から現在のような14フレット・ジョイント・モデルとして、
今年に至るまで70年間一度も中止になることなく生産されてきました。
エレクトリック・ギターにさまざまな形のものが存在するのに、アコースティック・ギターがみんな似たり寄ったりになるのは、
D−28がお手本になっているからです。
つまりD−28はアコースティック・ギターとしてはたいへん完成された、ひとつの究極のスタイルを持っているのです。
D−28の「D」というのは「Drednaught」の略で、当時世界一の巨漢を誇るイギリスの最新鋭戦艦「ドレッドノウト」に
ちなんで名づけられました。当時のアコースティック・ギターとしてはそれほど大型だったのです。
さて、70年間も生産され続けると、その間に行われた細部のモデル・チェンジは数え切れないほどです。
そのなかでも特におもだったものを表にしてみましょう。
パーツ | 実施年 | おもな変更点 |
トップ(表板) | 1946 | アディロンダック・スプルースからシトカ・スプルースへ |
サイド・バック(側板・裏板) | 1969 | ハカランダからインディアン・ローズウッドへ |
ブレイシング(表板の補強材) | 1944 | スキャロップからスタンダードへ |
トリム(トップの縁飾り) | 1947 | ヘリンボーンからストライプへ |
ピック・ガード | 1966 | タータス・シェル・タイプからブラックへ |
指板およびブリッジ | 1995 | エボニーからストライプト・エボニーへ |
2000 | ストライプト・エボニーからエボニーへ |
指板のインレイ | 1944 | スロテッド・ダイアモンドからスモール・ドットへ |
ロッド(ネックの補強材) | 1942 | スチール製Tバーからエボニーへ |
1946 | エボニーからスチール製Tバーへ |
1967 | Tバーからスクエアへ |
1985 | スクエアからアジャスタブルへ |
ペグ | 1939 | グローヴァー・オープン・バックからシールド・バックへ |
1940 | グローヴァー・シールド・バックからクルーソン・オープン・バックへ |
1947 | クルーソン・オープン・バックからクルーソン・デラックスへ |
1958 | クルーソンからグローヴァー・ロトマティックへ |
1979 | グローヴァー・ロトマティックからシャラーへ |
1992 | シャラーからマーティンの刻印入りゴトーへ |
ペグヘッドのロゴ | 1994 | 金色のデカールから金箔へ |
サドル | 1965 | ロング・スロットからショート・スロットへ |
ブリッジ・プレート | 1968 | メイプルからローズウッドへ |
1988 | ローズウッドからメイプルへ |
さて、これをこだわりの部分に着目して時系列で並べなおすと、
製造年 | サイド・バック | トリム | 指板のインレイ | ブレイシング |
ピックガード | サドル |
〜1944 | ハカランダ |
ヘリンボーン | スロテッド・ダイアモンド |
スキャロップド | タータス・シェル |
ロング・スロテッド |
44〜46 | ハカランダ | ヘリンボーン |
スモール・ドット | ノーマル | タータス・シェル |
ロング・スロテッド |
1947 | ハカランダ | ヘリンボーン |
スモール・ドット | ノーマル | タータス・シェル |
ロング・スロテッド |
48〜64 | ハカランダ | ストライプ |
スモール・ドット | ノーマル | タータス・シェル |
ロング・スロテッド |
1965 | ハカランダ | ストライプ |
スモール・ドット | ノーマル | タータス・シェル |
ショート・スロテッド |
66〜69 | ハカランダ | ストライプ |
スモール・ドット | ノーマル | ブラック | ショート・スロテッド |
1970〜 | インディアン・ローズ | ストライプ | スモール・ドット |
ノーマル | ブラック | ショート・スロテッド |
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となります(ふう〜疲れた)。
コアなファンなら当然44年以前のD−28が欲しいところでしょうが、なかなか市場には出ないうえ、仮に出たとしても
BMWが買えるような値段ですから、おいそれと手を出すわけにはいきません。
そうすると、どこで妥協するかということになります。
28フリークとしてどうしてもこだわりたいのがハカランダ。
アコースティック・ファンならご存知だと思いますが、ハカランダは正式名称をブラジリアン・ローズウッドといい、
現在はワシントン条約により国際間の取引が原則として禁止されている希少な材です。
マーティン社では69年半ばからハカランダをインディアン・ローズウッドに切り替えました。
もうひとつスタイル28の特徴としてヘリンボーン・トリムというものがあります。
これはトップ(表板)の縁飾りがヘリンボーン(ニシンの骨)と呼ばれる寄木細工でできているものです。
けれども第2次世界大戦を境にこういう寄木細工の職人さんが少なくなり、マーティン社では1947年途中でヘリンボーンを
廃止してしまいます。
結果的にぼくが選んだのは48年製。トリムがヘリンボーンからストライプに変更になった翌年のモデルです。
ほんとうはヘリンボーンが欲しかったのですが、そこまでいくとふだんガンガン引き倒すギターではなくなってしまいます。
40年代といえば、まだ職人さんも木材も良質な時代で、ヘリンボーンさえあきらめれば、きわめてクオリティーの高いギタ
ーを手に入れることができます。
約1年ほどあちこちのギター屋さんを回って入手しました。
大変によく鳴るギターで、演奏していると耳が痛くなるほどです。マーティンのギターはいろいろ弾いてきましたが、D-45
を含めて、自分にとって音色といい低音の迫力といい、音の太さといいベストな音のするギターです。
では画像をご覧いただきましょう。
製造されてから56年経つとは思えないコンディションを保っています。ペグ以外はすべてオリジナル。
トップは目の詰んだシトカ・スプルース。
サイド・バックは柾目のハカランダです。
経年変化のためロゼッタの部分でトップが割れています。
ほんとは修理したほうがいいのかもしれませんが、あまりにもいい音で鳴るので、下手にいじるのが心配でほったらかしています(笑)。
もうひとつ、この時代のマーティンのギターは塗りこみピックガードといって、ピックガードを貼ってから塗装をしていま
した。そのため温度による膨張率の違う表板とピックガードが干渉しあって、表板が割れてしまうマーティン・クラック
と呼ばれる現象が起こります。
ピックガードの左側からブリッジにかけて、木目に沿って縦にひびが入っているのがお分かりいただけますでしょうか。
こういうのをいちいち気にしていてはヴィンテージ・マーティンのオーナーにはなれません。はっはっは。
マーティンのギターはごく初期のものを除いてすべて、ネック・ブロックのところにモデル名とシリアル・ナンバーが
入っていて、これで製造年が分かります。さすがドイツ人気質ですね。
シリアル・ナンバー108213は1948年製であることを表しています。
さて、もう一本は1976年製のHD-28。
47年に廃止されたヘリンボーンの復活を求めるファンの声に応じて、マーティン社では76年にヘリンボーン・モデルの製造を
再開します。モデル名を新たにHD-28とし、同時にブレイシング(表板の裏側の補強材)もスキャロップという独特な形状を持っ
た質量の小さな往年のものを復活させ、レギュラー・ラインのD-28との差別化を図りました。
ただしサイド・バックはレギュラーのD-28と同じインディアン・ローズウッドです。
初年度のモデルだけあってトップも、サイド・バックもたいへん高品質の材が使われています。
これも製造されてから30年近く経つとは思えないほどのコンディションを保っています。フル・オリジナル。
このギターはさすがに48年製ほどのファット・トーンではありませんが、きわめてクリアーな高音とず〜んと響く低音を持っ
ています。ぼくが買ってからしばらく、友人が76年製のHD-28を必死で探し回っていました。
トップは目の詰んだシトカ・スプルース。
サイド・バックは柾目のローズウッドです。
バック(裏板)の補強材にスタンプで入れられた注意書き。
「USE MEDIUM GAUGE, OR LIGHTER, STRINGS ONLY.」と書かれています。
ごく初期のものはミス・プリントで「MEDUIM」となっていたらしいのですが、残念ながらぼくのは校正済みです(笑)。
ブレイシングがスキャロップになって、ヘヴィー・ゲージの弦はトップによくない影響を与えるので、こういう注意が加え
られたようです。現在この注意書きはレーザーで彫られています。
シリアル・ナンバー387081
では48年製のD-28と76年製のHD-28の細部を比較してみましょう。
まずヘッド。左が48年製、右が76年製。
76年のほうが全体的に丸みを帯びています。ペグはグローヴァー社製。48年のペグはレプリカです。
ストライプのトリムとヘリンボーン・トリム。
バックの2枚の板の接合部の寄木細工も76年製は往年のものを復活させました。ジグザグ・バックストリップと呼ばれるものです。
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