紙ジャケCDの誘惑


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Chapter 18 "THROUGH THE PAST, DARKLY"
by THE ROLLING STONES


original :DECCA SKL (LK) 5019 , Sept.12, 1969(UK)
     :LONDON NPS 3 , Sept.13, 1969(US)
paper sleeve : Universal Music UICY 93028 , Mar.16, 2006

前回に引きつづきストーンズの紙ジャケから、今回はオクタゴン(八角形)・ジャケットで有名な 『スルー・ザ・パスト・ダークリー(ビッグ・ヒッツ Vol.2』をご紹介していこう。
67年の『サタニック・マジェスティーズ』から、ストーンズのアルバムもついに英米の統一がはかられたのだが、 69年リリースのこのベスト盤はまた以前のように英米で異なる内容になってしまった。
これは66年の『ビッグ・ヒッツ Vol.1』が英米で収録曲が違っていたのと、 もうひとつは67年にUSのみでリリースされた『フラワーズ』というコンピレーション・アルバムのせいでもあった。

いずれにしても個人的には67年8月にリリースされたシングル「この世界に愛を(We Love You)」が US盤には収められていないのがたいへん残念だ。
英国では8位まで上がったが、米国で最高50位と振るわなかったのが外された理由だろうか。
一般的にはビートルズの「愛こそはすべて」のアンサー・ソング(というよりは影響をもろに受けた迷作?)としか 評価されていないようだが、この年の6月にミックとキースが麻薬の不法所持で逮捕されたことを反映して 牢獄の重い扉が閉まる音(!)から始まり、ニッキー・ホプキンスのパンキッシュなピアノが躍動するすばらしい曲だ。
米盤『スルー・ザ・パスト〜』から外されたのはやむを得ないとして、2002年の『フォーティ・リックス』にも 収められていないのは、当時からのファンとしては納得のいかないところだ。

では例によってUK盤から見ていただこう。




オクタゴンという変形ジャケのアイディアがどこから出てきたのか、寡聞にして知らないのでぜひご教示願えると ありがたいのだが、ヴィニール・コーティングされた薄いE式のゲイトフォールド・スリーヴは相変わらず美しい。

メンバーの前には見えないガラスがあって、それぞれが鼻や口や手をガラスに押し付けている。
バック・カヴァーを見るとそのガラスには無数のひびが入っていて、 閉じ込められた空間からの解放(への希求)を現しているように見える。
唇を押し付けたキースの顔などを見ていると、無表情なだけにユーモラスな感じがしておもしろいのだが、 結成当時は実質的なリーダーだったブライアン・ジョーンズの69年6月の脱退(じっさいには首切りだといわれている) から7月3日の変死というセンセーショナルな事件の直後にリリースされたアルバムということもあり、 ガラスに思いっきり鼻と口を押し付けたブライアンのどこか虚ろな表情は、痛々しくさえ感じられる。

内側はコーティングがない。
左側にメンバーの寝そべった画像、右側には曲目などのクレジットとともにブライアンの名と 4行の詩のようなものが書かれている。
ベスト盤ということで、プロデューサーはアンドリュー・ルーグ・オールダム、ローリング・ストーンズ、そして ジミー・ミラーの3組併記になっている。



ブライアンの名前の部分。

ブライアン・ジョーンズ(1943-1969)
これを見るとき、ぼくを思い出して
そして心のなかでぼくの歌を聞いて
世界中の人々がどんなことを言おうとも
あなたが見たぼくのことを話して

……というような意味だろうか。

フロント・カヴァーのタイトルと曲目の部分。
じっさいに収録された曲順とは違っている。



バック・カヴァー。
天近くの「RED-MONO/BLUE-STEREO」と書かれた左にあるのが、いわゆるDECCA穴だ。



US盤ではステレオ用とモノラル用のスリーヴを共用してコスト・ダウンを図るということはごく当たり前だったが、 UK盤ではそれぞれ別のスリーヴが用意されることが多かった。
これを独自の方法で解決しようとしたのがデッカ穴で、ステレオ盤はブルーのインナー・バッグに、モノラル盤は レッドのインナーにレコードを収めて、穴からインナーが見えるようにした訳だ。

スパインの部分を見ると、どちらもステレオ、モノラル両方のカタログ・ナンバーが記載されているが



デッカ穴のところを見ると……



一目瞭然というわけだ。

この穴、UKのパテントを取っていて「43212/ 68」というクレジットがある。
68年の登録ということなのだろうか。
穴とはいえあなどれません(←バカ^^)。
ま、あまり評判もよくなかったんだろうが、しばらくしてモノラル盤自体が製造されなくなり、 それとともにデッカ穴も姿を消してしまった。
60年代終りの数年だけ、というなかなか貴重なスリーヴではある。

なお、矢印の後には「曲目に + がついているものはモノラルに電気的な処理を加えてステレオ効果を出したものです。
このレコードはモノラル、ステレオ両方の装置に対応しています」みたいなことが書いてある。



下部のデッカ・ロゴの下にはラミネートにBritish Celanese Limited社が製造した Clarifoilという製品を使用したというクレジットと、スリーヴ製作会社Garrod & Lofthouse社のクレジットがある。
(なお、このラミネート加工…つまりヴィニール・コーティングですね、についてはTamachiさんのサイトに詳しい解説があるので、 興味のある方はいちどご覧になるといいだろう。
Tamachiさんのサイトへはここをクリック)

さて、このスリーヴはレコードの出し入れを内側からおこなうようになっている。
67年の『サタニック』ではふつうに外側から出し入れするようになっていたから、 このあたりにあまりこだわりはないようだ。



ではレーベルとインナーをご覧いただこう。 最初はモノラル盤から。




赤いオープン・デッカのレーベルで、マトリクスはA面がXARL-9067-P-2A、B面がXARL-9068.P-3A、 機械による刻印である(A面はハイフン、B面はピリオドになっている)。
そのほか9時方向に1、3時方向にB(B面はU)、12時方向にJTの刻印がある。

つづいてステレオ盤。
こちらは紺のボックスド・デッカ(つまりレイト・プレス)で、ブルーのインナーに入っている。




マトリクスはA面がXZAL-9067.P-1W、B面がXZAL-9068.P-2W(こちらは両方ともピリオド)、 さらにA面には9時方向に9 1、3時方向にH H、12時方向にJT、 B面には順に11HJTの刻印がある。
(ひょっとしたらA面は9H1Hに訂正したか、あるいはその逆かもしれない。)

ではつづいて、1日遅れでリリースされたUS盤を見てみよう。
ジャケットはコーティングのない厚紙製で、典型的なA式のスリーヴだ。




ゲイトフォールドの内側はUK盤もコーティングがないので、たいした違いはないように見えるが いつものように台紙に外側用のスリックを貼り付け、そのあとで内側のスリックを貼っている。
曲目やフォントも違っている。



フロント・カヴァーにはなぜかUS LONDONのロゴがない。



収録曲が違っているのでレイアウトも違う。
ただし「ホンキー・トンク・ウィメン」で始まって「ダンデライオン」で終わっているところはいっしょ。
文字がメンバーの顔にかからないように「マザー・イン・ザ・シャドウ」を真ん中に持ってきてある。

当然のことながらバック・カヴァーにデッカ穴はない。
下のほうにはUS LONDONのロゴやカタログ・ナンバーなどのほかに、「マザー・イン・ザ・シャドウ」が 擬似ステレオであることが表記されている。



レコードはふつうの、右端から出し入れするタイプだ。



レーベルは紺のロンドン・レーベルで中央に大きく「STEREOPHONIC」と書かれたタイプ。
オクタゴンの白いプレーンなインナーがついている。
マトリクスは手書きでA面がZAL-9133-6、B面がZAL-9134-6、両面にBell Soundの刻印と 「cf」のサインがある。




このインナーはどうもオリジナルのようだ。
もとの所有者が白いインナーを八角形に切ったと考えられないこともないが、それにしてはすごく直線的に 裁断されている。

ではUK盤とUS盤を比較してみよう。
まずフロント・カヴァー。
右がUK盤である。



つづいて内側。
前述したようにフォントが違っている。
こうして比べてみると、色味もけっこう違っているなあ。
(しまった、こちらは左がUK盤になっちまった!)



それではいよいよ紙ジャケです!
今回もずいぶん引っ張りましたか(笑)。




US盤を基にしたコーティングのない厚紙ジャケットだ。
バック・カヴァーにはUS LONDONのロゴはなく、アブコ関係のクレジットが記載されている。
件の「マザー・イン・ザ・シャドウ」はここではモノラル収録されている(この曲のリアル・ステレオ・ヴァージョンは 存在が確認されていない)のだが、それにかんするクレジットは載せられていない。

スパインにはタイトルとCD番号のほかに、例によってabkcoのロゴがくっきりとプリントされている。



CD面はピクチャー・ディスクになっていて、半円形のポリエチレンのインナーに収められている。
US盤の復刻だったらせめてオクタゴンの白いインナーをつけろよ!
(って、世界中にウェブ・マスターは何千万といるだろうけど、 半透明のポリ袋の画像を一生懸命撮って、UPしてるのはぼくぐらいのもんだろうなあ…^^;)



ではUS盤とくらべてみよう。







ゲイトフォールドの内側もスリーヴの作り方を含めてよく復刻しているほうだろう。
(輪郭部にフロント・カヴァーの一部が回り込んでいる。)

さて今回の紙ジャケの総合評価としては、ブログにも書いたがやはり70点というところだろう。
英米統一盤をUS盤で出したところ、UK盤ではデッカ・ロゴ、US盤ではロンドン・ロゴが 省かれたところ、レーベル、インナー・バッグなど、現在の紙ジャケの水準からいえば足りない部分がたくさんある。
しかし作りじたいはかなり丁寧なユニバーサル・ミュージックらしいものになっていると思う。

ちなみにユニバーサルでは権利の関係でDECCAロゴやレーベルの復刻がムリなのではないか、 と考えてる方がいらっしゃるかもしれない。
そんなことはありません。
その証拠がこれ。



2001年のリリースだが、ブルーズブレイカーズの紙ジャケで、フロント・カヴァーにデッカ・ロゴ、 レーベルにはステレオのオープン・デッカを再現している。
けっきょくアブコの戦略を突き崩すことができなかったということで、かえすがえすも残念だ。

2003年のCD-SACDハイブリッド盤のリリース時からアブコに対して何度も要請をくりかえし、 3年越しにやっとのことで紙ジャケ化にこぎつけたということだそうだが、 今回の紙ジャケにかんしては当のユニバーサル自身がいちばん不本意なのではないだろうか。
ぼくがそう考える根拠は、このフライヤーにある。



リリース前にはもっとも評判を呼んだ『サタニック』の3Dジャケをあえて外し、 今回のアルバム群のなかでももっとも地味な1枚である『アウト・オヴ・アワー・ヘッズ』のUK盤ジャケを 載せている。
ほんとはラミネート・コーティングも美しいUK盤で統一したかったんだろうなあ…。
妄想ですか(爆)。

© 2006 ryo_parlophone




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